鬱猫のつぶやき

鬱猫が日々思っていることをつづります

RISC-V Day Tokyo 2019 に参加してきた

日立製作所立馬場記念ホール にて行われたRISC-V Day Tokyo 2019に参加してきた。聞いて思ったことを忘れないうちに書き残しておこうと思い、記事にした。

個人的に気になったこと

まずは、将来的にRISC-Vが機能をスイスに移すことを計画しているとの話。Calista Redmondさんの発表において出てきた(正確には、発表あとの質疑応答のところ)。

ISAを非営利財団であるRISC-V Foundationが管理しているが、機能がアメリカにある以上、Huaweiへ行われたような措置が今後起きないとも限らない。スイスに拠点が移ることにより、こうした危険性はなくなり中国メーカーにとって追い風になりそう。

次にヘネペタの翻訳の苦労話。原著は結構な分量である上、殴り書きに近いところがあったため翻訳に際しては相当の苦労があったとのこと。編集者とのトラブルもあったそうで、その苦労の末生まれたのがヘネパタの日本語訳本だったという話。

私は大学の選考がComputer Scienceでも電気電子工学でもないので、パタヘネすらまだ読めていないが、コンピューターアーキテクチャの定番の教科書・バイブル的存在とのことで是非とも読破しておきたい。

その他、パネルディスカッション。

印象に残っているのは「セキュリティモジュールをオープンソースで作ることのメリットは?」という質問。ソフトウェアと同じでリーナスの法則 (「十分な目ん玉があれば、全てのバグは洗い出される」) が働くこと、問題がおきた場合に自力での検証ができること (これがArmやIntelのものだとできない) というのがメリットとの話が出ていた。

ただ、リーナスの法則が働くのは十分にアクティブなプロジェクトにおいてのみなので、オープンであることが必ずしもプラスに働くわけではないことは注意が必要。

例えば、オープンにして逆にサプライチェーン攻撃の標的になるケースもある。例えば、npmパッケージのevent-streamでは、悪意のある人がOSSのメンテナーとなり、悪意のあるモジュールをパッケージ内に埋め込んだという事件がおきている。

また、「RISC-Vを採用してよかった点。悪かった点。」という質問もあった。

よかった点として

  • シンプルなISAで本質的でない部分に煩わされることがない
  • 一通りソフトウェアスタックが整っている
  • ツールセットがよくできている
  • 新しいアイデアがすぐに試されて、実装が公開される

悪かった点として

  • デバッグ環境が整っておらず苦労する
  • libcとかにまだバグがあったりする
  • Tile Linkの仕様が一気に変わったりして、アップデートしたら突然動かなくなったりする
  • Chiselできる人があまりいない

とかが挙げられていた。

libcとかのバグはこれまで踏んだことがないけど、最近のものはだいぶ修正されたということなんかな。

Chisel ひとまず最低限かけるようになってきたが、まだまだな気がするな(依然としてRocket Chipのコードリーディングに苦しんでいるレベルなので。)。

所感

本日の発表を聞いていて、初めに思ったことが「日本でも商用利用がそろそろ始まる気配があるな」というところかなと。他のアジア諸国に比べて2--3年ほど遅れとの話があったが、今年が商用利用の元年になるかもしれない。

ただ、あくまで気配でしかないかな。日本企業の発表で具体的な採用事例を紹介しているところは少なくとも現時点ではなく、まだ検討段階を脱していない。カスタマイズ可能・低消費電力を実現しやすい・ライセンスフリーであることに目をつけてようやく検討しだしたと感じ。

あと、既存の製品からの移行よりは新規参入者をターゲットとしているサービスがRISC-Vは多めと今日聞いていて感じた。すでに市場に入り込み広く使われているプロセッサの置き換えをすることがどれだけ大変なのか、それは歴史が証明しているわけで、そこに狙いを定めるのはなんか正しい気がする。(ただ、DTSインサイト SiFiveと日本市場の正規代理店となったというプレスリリースが先週あったけど、これにより既存の製品からの移行の支援の体制が整ってきてはいる。)

あと、スポンサーセッションが多めなのは気になった。もう少しテクニカルな話を聞きたかったというところはある。アカデミック・産業半々ぐらいの構成にしてほしい。(ちなみに、海外のRISC-V Workshopとかをみていると発表の内容がアカデミック・産業半々ぐらいになっている。)日本でRISC-Vに関係する研究を行なっている研究者は0ではないはずで、そういった研究者を招いて最先端の研究内容を発表するセッションを設けても良いのではと感じた。

総じて勉強になることが多かった。来年も都合が合えば参加したい。